パノラマ写真家 横谷恵二氏
2024.10.16 投稿の記事&写真です。
レトロコミュニティ豆電球
北海道の道央エリア、空知地方の北西にある雨竜町、町の西側、暑寒別岳の麓に広がる山岳型高層湿原の雨竜沼湿原には春から秋にかけてミズバショウ、エゾカンゾウなど多くの花や植物を観ることができる自然豊かな町である。
札幌から道央自動車道経由で約1時間半、のどかな田園風景の広がる国道275線を北上すると左手に茶色いトタン屋根の古い木造建物が見えてくる。それが、レトロな商品を中心とした雑貨店「レトロコミュニティ豆電球」である。
裸電球のある玄関をくぐると、店内は懐かしいレトロなモノたちで溢れている。雑貨、家電、家具、フィルムカメラ、ミニカーなどの玩具、ホーロー看板などなど、じっくり眺めているととても1日では観きれないほどの膨大な品数である。
お店のハイライトは何とい言っても店内奥にある「昭和な豆小路」と名付けられたコーナーだ。お祭りや縁日の露天で馴染みのスマートボール、昭和の街中でよく見かけたタバコ屋のカウンター、そのタバコ屋の中を埋め尽くすように陳列された懐かしいアニメのキャラクターたち。
そしてタバコ屋横の車庫には、オート三輪のマツダT600(1963年製)が。この車、2004年に公開された竹内結子主演のファンタジー映画「天国の本屋〜恋火」で使われた車でもある。北海道がロケ地となったこの映画で、このマツダT600は、地上と天国を行き来する乗り物として活躍した。まるで映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のタイムマシン、デロリアンようだ。
店主 宮口正道さん、由己江さんご夫妻に開店の経緯について伺った。
この建物、元々は旧雨竜中学校の校舎で、民間企業が工場として利用していたが、企業の撤退に伴い空き家となっていた。当時、電力会社に勤めていた正道さんは、役場からその話を聞き「この建物、今なんとかしないと壊されてしまう」という強い思いから、会社の早期退職支援制度を利用しお店の開業を決意したのである。
正道さんは、元々、木工が好きだったので自作の木工品を販売することが一番の目的だったが、そのための販売手段としてリサイクルショップを併設することにした。ご主人からその話を聞いた由己江さん「正直驚きましたが、これはもう私が応援しなくちゃ、という思いで引き込まれましたね」と当時を振り返る。
そこから夫婦二人三脚での開店準備が始まった。まず取り掛かったのが廃屋同然の建物の改修工事である。お二人で一年もの歳月をかけて行ったという。木工が得意な正道さんは、なんと敷地内にあった建物を一人で解体し、その部材を再利用し二棟ある現在の建物の修理を行なったのである。改修には数々の難題があったが二人三脚でそのハードルを乗り越え、2005年6月に無事開店の日を迎えた。
開店から20年、当初、年間約4,000人程の来客数であったが、昨年(2024年)は過去最高を記録し、夏場には1日に200〜300人、多い時には600人を超えるたこともあったという。雨竜町の人口が約2,000人弱であることを考えると、1日で人口の3分の1近くもの人々が訪れた計算になる。
そこまで育て上げたこのお店だが、宮口ご夫妻は今年いっぱいで若い世代にバトンタッチする予定だ。ご夫妻に20年間を振り返り特に印象に残ってるエピソードは?とお聞きした。
由己江さん曰く、やはり一番の思い出は「人との出会い」だという。「ある日、ちっちゃな赤ちゃん、本当に生まれて数ヶ月ぐらいの赤ちゃんを連れたお母さんが『抱っこしてください』て言ってくれたのね。で、抱かせて頂いた気がするんですけど、その娘さんが高校生になってまたお二人でお見えになって、あの時、抱こしてもらった子なんですよって、来てくださったんです、それが嬉しかったの」。
そんなご夫妻の「人との出会いや繋がり」への想いからか、2024年、店名の「リサイクルショップ&木工房 豆電球」は「レトロコミュニティ豆電球」へと変わった。
「豆電球」の名前の由来については、
「電力会社出身であることと、豆電球は小さいけれど、ほのぼのとした明かりで皆を明るくしてくれる、そんな存在でありたいという希望を込めて名付けました」と教えてくれた。
店内に置かれた懐かしい昭和のモノたちを見ていると、その一つひとつに紐付いた自身の過去の記憶が次々と呼び起こされてくる。それはまるで、忘れ去られていた過去の記憶がほのかな光に照らされて蘇る、そんな感覚である。
「豆電球」はこれからも、この町とここを訪れる人々の心に、小さくとも温かな光を照らし続けてくれることであろう。